分断するコミュニティ
オーストラリアの移民・先住民族政策

A5判 / 200ページ / 並製 / 価格 2,420円 (消費税 220円) 
ISBN978-4-588-67520-1 C1036 [2017年10月 刊行]

内容紹介

固有の権利を主張する先住民族、母国を追われた難民、高度な技能を持つ移民など、多様な背景を持つ他者が増え続ける現在、社会の構成員の平等をめざしたシティズンシップの理念は変容を迫られている。コミュニティを重視するとしてマイノリティに自己責任の価値観を押しつけ、効率性を追求する新自由主義的政策の問題点を長年の現地調査から考察し、それが社会的分断を深めると警鐘を鳴らす。

著訳者プロフィール

塩原 良和(シオバラ ヨシカズ)

1973年埼玉県生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程単位取得退学。博士(社会学)。日本学術振興会海外特別研究員(シドニー大学),東京外国語大学外国語学部准教授などを経て,現在,慶應義塾大学法学部教授。専門領域は国際社会学・社会変動論,多文化主義・多文化共生研究。オーストラリアと日本を主なフィールドとして,多文化化する社会に関する研究を進めている。主著に『分断と対話の社会学』(慶應義塾大学出版会,2017年),『共に生きる』(弘文堂,2012年),『変革する多文化主義へ』(法政大学出版局,2010年),『ネオ・リベラリズムの時代の多文化主義』(三元社,2005年),『社会的分断を越境する』(共編著,青弓社,2017年),『変容する国際移住のリアリティ』(共編著,ハーベスト社,2017年)など。

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序章 エスニック・マイノリティ政策の新自由主義的転回とコミュニティ
1. コミュニティはなぜ重視されるのか
2. コミュニティとシティズンシップ
3. エスニック・コミュニティと差異化されたシティズンシップ
4. 新自由主義の台頭とコミュニティを通じた統治
5. ふたつの例外化
6. 本書の目的と構成

第1章 マイノリティの権利から国益へ:先住民族,庇護希望者,移住者への政策
1. 先住民族政策――自己決定権の確立と後退
2. 庇護希望者政策――軍事化,民営化,コミュニティでの滞留
3. 技能移民の受け入れと移住者への定住支援――加速する経済優先

第2章 コミュニティを通じた統治の展開:北部準州緊急対応と収入管理制度
1. 自己決定から自己責任へ
2. 緊急対応と「特別措置」
3. パターナリズムと収入管理制度
4. 社会実験からの全国展開
5. コミュニティを通じた統治の拡大・深化

第3章 土地権を規制緩和する:「格差是正の取り組み」と先住民族共同体
1. ホームランドの今日的意義
2. 北部準州緊急対応政策の見直し
3. 緊急対応から格差是正へ
4. 規制緩和される先住民族の権利
6. 誘導される自己決定
7. 新自由主義時代の自己決定権

第4章 解放か放置か:庇護希望者の地域社会での抑留
1. 地域社会への解放?
2. 労働党政権の庇護希望者政策
3. 「地域社会を活用した」抑留方式
4. 人道的措置からコスト削減策へ
5. 地域社会に放置される庇護希望者
6. 統治としての放置

第5章 選別と空間的管理の行方:技能移民と非熟練・半熟練労働者の受け入れ
1. 永住・長期滞在技能移民の増大
2. グローバルな多文化的ミドルクラス
3. 供給主導から需要主導へ
4. 選別の技術の高度化
5. 地方への技能移民の導入促進
6. 半熟練・非熟練労働者を地方へ
7. ミドルクラス多文化主義とネオリベラル多文化主義

第6章 移住者の互助を活用した支援:在豪日本人移住者の言語・文化継承
1. フレクシブルな市民?
2. 在豪日本人互助組織の再形成
3. 移住者支援政策への編入
4. 移住者の互助を活用した日本語教育
5. 移住者の互助を活用した就学前教育
6. コミュニティへのアウトソーシング?

第7章 移住者からの異議申し立て:住民運動から市民運動へ
1. 継承語をめぐる住民運動
2. 遠隔地ナショナリズムと「政治的」活動の忌避
3. トランスナショナリズムの萌芽
4. 保守的価値観との交渉
5. フレクシブルな市民から「根付いた」市民へ

終章 空間的統治の拡大と分断される社会
1. 社会統合政策と出入国管理政策の連動
2. 新自由主義的な空間統治
3. 段階づけられたシティズンシップ
4. 進行する社会的分断
5. ホームを取り戻す

引用・参考文献
あとがき
索引

書評掲載

「出版ニュース」(2017年12月中旬号)にて紹介されました。

「オーストラリア研究」(31号/長友淳氏・評)にて紹介されました。

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