丘蟻一族

四六判 / 224ページ / 上製 / 価格 2,750円 (消費税 250円) 
ISBN978-4-588-49031-6 C0097 [2013年09月 刊行]

内容紹介

白アリをヒーローやヒロインに仕立て、変形譚を縦糸、ウィットを横糸に物語を織り成し、その他かずかずの動物や昆虫を登場させながら、国家の虚構性、あるいは政治のウソに真正面から迫った長篇イソップ物語! 本書は、長篇童話「丘蟻一族」とその続篇「天馬降臨」に、これら二作品の解説ともいえる著者の講演録「なぜ童話を書くのか」によって構成される。

著訳者プロフィール

鄭 清文(テイ セイブン)

(Cheng Ching-wen)チェン・チンウエン
1932年9月、台湾は新竹州桃園郡(現・桃園市)に生まれる。旧姓李、生後1年、台北州新荘鎮(現・新荘市)に住む母方の叔父の養子となり、鄭姓を名乗る。少年時代、中学1年まで日本語教育を受ける。解放後、商業学校に学び、卒業して華南銀行に勤める。その後、台湾大学商学系に入学、卒業後、2年の兵役を終えて華南銀行に復職、以後1998年、定年退職まで同行に勤務する。この間、1958年、短篇「寂寞的心(寂しい心)」で作家デビューを果たし、以来、現在まで200篇を超す長・中・短篇小説を発表している。短篇小説は、ほとんどが『鄭清文短篇小説全集』全七巻(麥田出版)に収められている。台湾生え抜きの戦後第二世代で、1970年末から台湾史の暗黒部分に迫る「政治小説」を試みるようになる。本長篇童話もその延長にある。童話作家としては、すでに『燕心果』(1993)、『天燈・母親』(2000)、『採桃記』(2004)などの童話集があり、うち十数篇が日本語にも訳されている。1999年には『三■(月+卻)馬(三本足の馬)』が英訳、コロンビア大学出版局から刊行され、サンフランシスコ大学環太平洋センターから桐山環太平洋書巻奨を獲得、2005年には第九届国家文芸奨を受賞した。

西田 勝(ニシダ マサル)

1928年、静岡県に生まれる。1953年、東京大学文学部卒業、法政大学文学部教授を経て、現在〈西田勝・平和研究室〉主宰、植民地文化学会代表。主要著書に『グローカル的思考』『近代日本の戦争と文学』『近代文学の発掘』(以上、法政大学出版局)、『社会としての自分』(オリジン出版センター)、『近代文学閑談』(三一書房)、『私の反核日記』(日本図書センター)、編訳書に『田岡嶺雲全集』(全7巻、刊行中、法政大学出版局)、ゴードン・C・ベネット『アメリカ非核自治体物語』(筑摩書房)、『世界の平和博物館』(日本図書センター)、呂元明『中国語で残された日本文学』(法政大学出版局)、『《満洲国》文化細目』(共編、不二出版)、『《満洲国》とは何だったのか』(共編、小学館)などがある。

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次

I 丘蟻(きゅうぎ)一族
 カムフラージュはただ外見を改変するに過ぎないが、ウソは自分自身を変えてしまう。ウソをつくことが丘蟻一族の本能になってしまった。本能は伝統になる。ウソをつくことは、丘蟻一族にとっては、蝶がキレイな衣装をまとっているのと変わりがない……

II 天馬降臨
 小丘蟻が頭を上げて空を見て焦燥と緊張を感じた。
 一つの影がゆっくりと近づいてくるのだ。驚き慌てる小丘蟻もいた。
「怖がるな」と少し大きな丘蟻が言った。
「あれは何だ?」
「馬……」

なぜ童話を書くのか
 台湾には童話がない。私は書かなければならない。
 私は書くことができるし、台湾を書かなければならない。
 童話は文学作品であり、台湾文学に、いくらかを加えたい……

訳者あとがき

書評掲載

「図書新聞」(2013年12月7日号/名取弘文氏・評)に紹介されました。

「植民地文化研究」(第13号、2014年7月発行/三木直大氏・評)に紹介されました。

「東京新聞 夕刊」(2017年11月27日付/西田勝氏・評)にて紹介されました。