裸のヘッセ
ドイツ生活改革運動と芸術家たち

四六判 / 292ページ / 上製 / 定価:3,000円 + 税 
ISBN978-4-588-49036-1 C1098 [2019年04月 刊行]

内容紹介

20世紀初頭、若き作家は〈生活改革運動〉の影響下、スイスとイタリアの国境地帯にあるアスコーナの地モンテ・ヴェリタに滞在し、自然回帰を志向する放浪の思想家や芸術家らと裸体生活・菜食主義を試みた。複数の小説作品に大きな痕跡をとどめながらも正面から論じられずにいたこの反文明体験の全容を初めて明るみに出す好著。日本の少女マンガにも影響を及ぼした精神/身体文化の源泉に迫る。

著訳者プロフィール

森 貴史(モリ タカシ)

1970年、大阪府生まれ。Dr. phil.(ベルリン・フンボルト大学)。現在、関西大学文学部(文化共生学専修)教授。主要著書・訳書:『踊る裸体生活 ドイツ健康身体論とナチスの文化史』(単著、勉誠出版、二〇一七年)、„Klassifizierung der Welt. Georg Forsters Reise um die Welt.“(単著、Rombach Verlag, 2011)、『ドイツ奇人街道』(共著、関西大学出版部、二〇一四年)、『ビールを〈読む〉 ドイツの文化史と都市史のはざまで』(共著、法政大学出版局、二〇一三年)、『ドイツ王侯コレクションの文化史 禁断の知とモノの世界』(編著、勉誠出版、二〇一五年)など。

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次


 生活改革運動とヘッセ
 ヘッセの略歴と周辺事情
 本書の立ち位置

第1章 生活改革運動の聖地 アスコーナのモンテ・ヴェリタ

1.モンテ・ヴェリタ
 「真理の山」
 アスコーナ来訪者たち

2.生活改革運動家たち
 ヘッセが描くアスコーナの人びと
 モンテ・ヴェリタ創設者たちの肖像
 モンテ・ヴェリタ・サナトリウム

第2章 ガイエンホーフェン時代のヘッセとアスコーナ

1.ヘッセのアルコール依存症
 謎多きガイエンホーフェン時代
 さまざまな伝記のなかのヘッセ
 日本のヘッセ伝記

2.ヘッセのアスコーナ滞在
 裸体生活者ヘッセ
 『岩山にて ある「自然人」の覚え書』

第3章 放浪の預言者グスト・グレーザー

1.グストは放浪する
 「預言者」と呼ばれるまで
 「自然人」グストの生活
 アルチェーニョの詩
 グストの兵役拒否の思想

2.ガイエンホーフェン村でのグスト・グレーザー
 ルートヴィヒ・フィンク
 親友フィンクが伝える驚愕のエピソード
 ヘッセ、菜食主義と裸体日光浴を知る

第4章 菜食主義者ヘルマン・ヘッセ

1.菜食主義者の群像
 「コールラビ唱道者」
 一九世紀の菜食主義運動
 「完全菜食主義者」
 ヘッセが描く菜食主義者たち
 菜食主義者のカテゴリー
 菜食主義者としての宮沢賢治

2.『クネルゲ博士の最期』
 菜食主義者の派閥と反目
 ヨーナスとカール・グレーザー
 エーリヒ・ミューザムのアスコーナ批評
 菜食主義コロニー移住の結末

第5章 「放浪の預言者」と呼ばれた人びと

1.生活改革運動と預言者たち
 短編小説『世界改革家』に描かれた「預言者」
 「預言者」を描くヘッセ作品
 ゲルハルト・ハウプトマンの短編『使徒』
 放浪の説教師ヨハネス・グートツァイト
 生活改革運動の芸術家ディーフェンバッハ
 《光への祈り》の画家フィードゥス

2.「裸足の預言者」グスタフ・ナーゲル
 グスタフ・ナーゲルの経歴
 ナチスと対立するナーゲル

3.『世界改革家』
 『世界改革家』成立時期の異説
 ヘッセが描くボヘミアンの肖像
 ヴァン・フリッセンの不可思議な人物設定
 ヴァン・フリッセンとニューワンホイス
 『世界改革家』の作品的意義

第6章 『ペーター・カーメンツィント』の生活改革運動

1.シュテファン・ツヴァイクの回想録『昨日の世界』
 ヘッセの同時代人ツヴァイク
 生活改革運動と自然療法の浸透

2.『ペーター・カーメンツィント』
 ヘッセ出世作の成立時期
 キリスト教から離脱する者たち
 エルンスト・ヘッケルと進化論
 『カーメンツィント』と禁酒運動
 登山家のカーメンツィント

第7章 生活改革運動家との訣別 『友人たち』(一九〇八年)をめぐって

1.もうひとつの生活改革運動コロニー、山村アムデン
 裸のヘッセが撮影されたアムデンの岩山
 放浪の説教師ヨーズア・クライン

2.『友人たち』
 やはり伝記的な中編小説
 大学生三人が主人公の物語
 三人目の主人公ハインリヒ・ヴィルト
 友人ふたりはいかに訣別しえたか
 ヴィルトとの別離の意義
 ヴィルトのモデルも生活改革運動家

3.グスト・グレーザーと『デミアン』
 遍歴するグストとの再会
 デミアンとはだれのことか

4.預言者グストの素顔
 ヒルデガルト・ユング=ノイゲボーレンの証言
 グストからの書簡
 それからのグスト・グレーザー

第8章 ヘッセと日本の特殊な関係

1.日本と関わりが深いヘッセの親族
 少年ヘッセ、新島襄と会う
 「日本の従弟」ヴィルヘルム・グンデルト
 日本の国語教材『少年の日の思い出』

2.『車輪の下』と教養主義
 ヘッセの青春小説
 『車輪の下』の少年たちの描写
 高橋健二のヘッセ評伝

3.少女マンガとヘッセ作品
 「二四年組」がヘッセを読む
 ヘッセ作品のヴィジュアル化

第9章 サナトリウムのヘルマン・ヘッセ

1.ヘッセは医師を巡歴する
 ヘッセと医師
 ヘッセを診察した医師たち
 冷水浴の描写
 神経症の治療
 『芸術家と精神分析』

2.同時代の芸術家とサナトリウム
 裸体で日光浴するムンク
 水浴するハウプトマンと『日の出前』
 『魔の山』で療養するトーマス・マン

3.フランツ・カフカのサナトリウム巡礼
 健康と衛生を気遣うカフカ
 カフカと健康体操
 裸のカフカ

4.ヘッセのサナトリウム文学
 『やすらぎの家』
 『湯治客』
 ヘッセが描く湯治療法
 ヘッセ『湯治客』とマン
 『魔の山』に登場するオランダ人
 クヌート・ハムスンのサナトリウム小説

第10章 『デミアン』 夢が現実になる世界

1.神鳥アブラクサス
 シンクレアという筆名
 カインの〈しるし〉
 まるで秘密結社小説のごとく
 オカルティズムとヘッセ

2.少年シンクレアをめぐるふたつの世界
 「ふたつの世界」を生きる

3.グノーシス主義と母権制
 グノーシス主義とは
 バッハオーフェンの「シンボルとしての卵」
 ヘッセと母権制

4.夢日記とユング心理学
 「デミアン」という名前
 『デミアン』の匿名作家をみぬいたユング
 ユングとヘッセへの質問状

5.〈夢〉の物語『デミアン』
 シンクレアの〈夢〉の世界
 デミアンと鳥の夢
 夢と現実が交錯する物語
 ヘッセの健康状態と『デミアン』


主要参考文献一覧
図版出典