叢書・ウニベルシタス 950
ロマン主義
あるドイツ的な事件

四六判 / 470ページ / 上製 / 価格 5,830円 (消費税 530円) 
ISBN978-4-588-00950-1 C1310 [2010年12月 刊行]

内容紹介

神を失った世俗的世界に、ふたたび古代の夢と神秘、無限なるものを甦らせるロマン主義。伝統と創造、革命と反動を同時に内包する、このあまりにドイツ的なイロニーの精神運動は、文学的天才たちの共同体を生み出したのち、やがて巨大な廃墟をもたらす民族の政治宗教となった。「遅れてきた国民」の近代二〇〇年にわたる思想経験を、ロマン派の来歴と転変から描きだす精神史の白眉。〔思想・文学〕

著訳者プロフィール

リュディガー・ザフランスキー(ザフランスキー リュディガー)

リュディガー・ザフランスキー
1945年生まれ.哲学博士.フランクフルト大学でドイツ文学,哲学,歴史を学び,ベルリン自由大学のドイツ文学科の助手,講師を経て,『ベルリナー・ヘフト』誌の編集者としてジャーナリズムで活躍.広く成人教育や市民大学にかかわる.カール・ハンザー社の『ドイツ文学の社会史』(邦訳・法政大学出版局)やアテネーウム社の『ドイツ文学史』の企画にも携わり,現在は思想家・作家について独特な評伝の領野を切り拓いて活動している.邦訳書に『E. T. A.ホフマン──ある懐疑的な夢想家の生涯』『ショーペンハウアー──哲学の荒れ狂った時代の一つの伝記』『人間にはいくつの真理が必要か──疎外論から他者論へ』『ハイデガー──ドイツの生んだ巨匠とその時代』『悪 あるいは自由のドラマ』『ニーチェ──その思考の伝記』『人間はどこまでグローバル化に耐えられるか』(いずれも法政大学出版局刊),近著にSchiller: oder die Erfindung des Deutschen Idealismus (2005),Goethe und Schiller. Geschichte einer Freundschaft(2009) がある.

津山 拓也(ツヤマ タクヤ)

1962年佐賀県生まれ.東京外国語大学大学院修士課程(独文学専攻)修了.現在,東京外国語大学・二松学舎大学・國學院大學・中央学院大学非常勤講師.訳書に,マール『精霊と芸術』,ザッペリ『知られざるゲーテ』,ヴェルナー『ピラミッド大全』,デッカー『古代エジプトの遊びとスポーツ』(以上,法政大学出版局刊),ゲッツ『中世の聖と俗』,ボルスト『中世の時と暦』(以上,八坂書房刊),共訳に,デュル『秘めごとの文化史』『性と暴力の文化史』『挑発する肉体』『〈未開〉からの反論』,ブレーデカンプ『古代憧憬と機械信仰』(以上,法政大学出版局刊)がある.

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序 文

第1部 ロマン主義
第1章 ロマン主義の発端──ヘルダー海へ出る。文化を新たに発明する。個人主義と諸民族の声。時流の中で揺れ動く物事について。

第2章 政治的革命から美的革命へ。政治的無力と詩的大胆さ。シラーは人々を偉大な遊戯へと駆り立てる。ロマン派は登場の準備をする。

第3章 インク染みの時代。啓蒙主義的な思慮分別からの離別。奇異から奇跡へ。フリードリヒ・シュレーゲルとイロニーの履歴。美しき混沌。批評の独裁者の時代。世界を芸術作品と化す。

第4章 フィヒテ、および一個の自我たらんとするロマン主義的な欲望。心の過剰。無からの創造。ロマン派の社交生活。伝説となったイェーナの住居共同体。精神的高揚、そして墜落への不安。

第5章 ルートヴィヒ・ティーク。文学工場にて。ウィリアム・ロヴェルの過剰な自我。文学風刺。著述の名人が芸術信仰者ヴァッケンローダーに出会う。夢の実現を追求するふたりの友。月光照らす魔法の夜とデューラーの時代。薄明の中のヴィーナス山。フランツ・シュテルンバルトの遍歴。

第6章 ノヴァーリス。シュレーゲルとの友情。シラーの病床にて。ゾフィー・フォン・キューン。愛と死。超越の歓喜について。夜への讃歌。坑外で、坑内で。山の神秘。キリスト教世界あるいはヨーロッパ。神なきところ、亡霊が支配する。

第7章 ロマン派の宗教。神を発明する。シュレーゲルの実験。フリードリヒ・シュライエルマッハーの登場──宗教とは無限なものを理解する感覚と趣味である。善悪の彼岸にある宗教。現実における永遠。美による世界の救済。ある宗教の達人の生活より。

第8章 美と神話。ドイツ観念論最古の体系プログラム。理性の神話。未来の理性から根源の真実へ。ゲレス、クロイツァー、シュレーゲルと東洋の発見。もう一つの古典古代。ヘルダーリンの神々。その現在と過去。絵の中に消える。

第9章 詩的政治。革命からカトリック教会の秩序へ。ロマン主義的な王国理念。文化国民に関するシラーとノヴァーリス。フィヒテの国民。自我(私)から私たちへ。母胎たる社会。アダム・ミュラーとエドマンド・バーク。国民性。ハイデルベルク・ロマン派。解放戦争。武装するロマン主義。ナポレオン憎悪。憎悪の天才クライスト。

第10章 正常性にロマン派が感じる居心地の悪さ。啓蒙主義の興醒めな精神。理性と合理性。芸術家の矜持と苦悩。クライスラー。俗物批判。多様性の喪失。幾何学の精神。退屈。ロマン派の神対大アクビ。叙情的な〈かのように〉。

第11章 ロマン派の出発と突然の中断。アイヒェンドルフ──爽やかな船出。セイレーンの歌。神への信頼。窓辺にて。詩人とその仲間。生のポエジー。敬虔なイロニー。のらくら者──キリスト狂信者。E・T・A・ホフマン──何の苦もなく。しっかりと根を張らずに。遊戯者。驚愕の美学。天国はすぐ傍に、しかし地獄もまた同じ。ブランビラ王女と大いなる笑い。懐疑的な夢想家。

第2部 ロマン的なるもの
第12章 理念の混沌を回顧する。ロマン主義批判者としてのヘーゲル。世界精神の号令と傲慢な主観。ビーダーマイアーと青年ドイツ派。現実的な現実への途上で。暴露競争。天の批判、大地と肉体の発見。ロマン主義的な未来、散文的な現在。シュトラウス。フォイエルバッハ。マルクス。両陣営に挟まれたハイネ。ロマン派への決別とナイチンゲールの擁護。人類解放戦争の兵士、詩人になっただけ。

第13章 青年ドイツ派ヴァーグナー。パリのリエンツィ。ドレスデンのロマン主義革命家。初期ロマン派の夢──新しい神話──の実現。ニーベルングの指環。いかにして自由な人間が神々の黄昏をもたらすか。反資本主義と反ユダヤ主義。神話的な体験。トリスタンとロマンティックな夜。象徴的な陶酔。五感への総攻撃。

第14章 ニーチェのヴァーグナー評──初の芸術世界周航。時代の非ロマン主義的精神──唯物主義、現実主義、歴史主義。矯正施設。ディオニュソス的なるもののロマン主義。世界言語たる音楽。ニーチェのヴァーグナーからの離反──救済者の救済。大地に忠実であること。ヘラクレイトスとシラーの戯れる宇宙児。イローニッシュな抵抗の終焉。崩壊。

第15章 生、生あるのみ。青年運動。生の改善。ランダウアー。神秘主義の侵入。フーゴ・フォン・ホフマンスタール、リルケとシュテファン・ゲオルゲ。ヴィルヘルム二世治下の書割魔術──艦隊建造の〈鋼鉄のロマン主義〉。一九一四年の理念。戦時下のトーマス・マン。倫理的雰囲気、ファウストめいた香気、十字架、死と墓穴。

第16章 魔の山から平地へ。ランゲマルク。両世界間のさすらい人。二つの冒険心──エルンスト・ユンガーとフランツ・ユング。テューリンゲンの流行性舞踏病。東洋への旅立ち。無理をした即物主義。偉大なる瞬間への期待。共和制末期の爆発的な古めかしさ。ハイデガーの政治的ロマン主義。

第17章 告発されるロマン主義。国家社会主義(ナチズム)はどれほどロマン主義的だったか。ナチスの文化組織におけるロマン主義をめぐる論争。ナチスの近代主義──鋼鉄のロマン主義。帝国のロマン主義、ニュルンベルク。前史としてのロマン主義的な精神態度。ディオニュソス的な生あるいは生物学主義。超俗性、世俗信仰、世界を転覆させる狂乱。粗野な出来事の高尚な解釈。実例としてのハイデガー。ヒトラーと、ロマン主義の熱に浮かされた夢。妄想と真実。

第18章 破局とそのロマン主義的解釈──トーマス・マンのファウストゥス博士。粗野な出来事の高尚な解釈。興醒めの精神。禁酒療法を施されたアルコール中毒患者。懐疑派世代。再度の新即物主義。前衛主義(アヴァンギャルド)、技術と大衆。《ナハトシュトゥディオ》のアドルノとゲーレン。六八年運動はどのようにロマン主義的だったか? ロマン主義と政治について。

訳者あとがき
文献および出典一覧
人名索引