尊厳と社会(下)

A5判 / 462ページ / 上製 / 価格 5,500円 (消費税 500円) 
ISBN978-4-588-15108-8 C1010 [2020年03月 刊行]

内容紹介

下巻では、「尊厳ある社会」を構想する上で、この社会に生きる人々に関わる、より具体的なケースを取り上げる。原爆被害者、ハンセン病患者の隔離、DV、日韓問題、慰安婦、芸術表現と尊厳、障害者倫理学、認知症患者の意思決定、高齢者の介護、終活と死、ケアとジャーナリズム、働き方と企業倫理など。果たしてこれらに「尊厳」はどのように関わるのか。上下各巻に日本語で読める文献の読書案内を付す。

著訳者プロフィール

加藤 泰史(カトウヤスシ)

1956年生まれ。名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。一橋大学大学院社会学研究科教授。哲学、倫理学。Kant’s Concept of Dignity, Berlin, Boston: De Gruyter, 2019(Gerhard Schönrichとの共編著),「尊厳概念史の再構築に向けて」(『思想』第1114号、2017年)、『思想間の対話』(分担執筆、法政大学出版局、2015年)、ほか。

小島 毅(コジマ ツヨシ)

1962年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東京大学大学院人文社会系研究科教授。中国思想史。『儒教の歴史』(山川出版社、2017年)、『近代日本の陽明学』(講談社、2006年)、『宋学の形成と展開』(創文社、1999年)、『中国近世における礼の言説』(東京大学出版会、1996年)、『中国思想史』(共著、東京大学出版会、2007年)、ほか。

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次

第Ⅳ部 法/政治編
第1章 人間の尊厳と人文社会科学の挑戦──原爆被害者「生活史調査」を中心に(後藤玲子)
第2章 ハンセン病者・療養者の隔離をめぐる「尊厳」──近現代の日本社会における(石居人也)
第3章 尊厳と暴力──公的領域・親密的領域・個的領域の三分法から考える(宮地尚子+金井聡)
第4章 尊厳と歴史──戦後日韓関係の思想から(小倉紀蔵)
第5章 芸術表現による尊厳への加害──リーガル・モラリズムとリベラリズム(原塑)

◎読書案内コラム
6 ホセ・ヨンパルト『人間の尊厳と国家の権力──その思想と現実、理論と歴史』(西野基継)
7 アヴィシャイ・マルガリート『品位ある社会──〈正義の理論〉から〈尊重の物語〉へ』(斎藤拓也)
8 内尾太一『復興と尊厳──震災後を生きる南三陸町の軌跡』(宇佐美公生)
9 山下潔『国際人権法──人間の尊厳の尊重・確保と司法』(中澤武)

第Ⅴ部 介護政策編
第1章 障害者倫理学──人間の尊厳とインクルーシヴな共同体のためのプラグマティズム的アプローチ(ヘザー・キース/小林道太郎 訳)
第2章 認知症患者の尊厳と医療ケアの意思決定──自律尊重と利益保護をめぐって(日笠晴香)
第3章 高齢者の尊厳とは──日独の高齢者介護の比較(浜渦辰二)
第4章 死のセルフマネジメント──「終活」におけるネオリベラルな主体(ドロテア・ムラデノーヴァ/齋藤元紀 訳)
第5章 「声なき声」の表象のポリティクス──ジャーナリズムは「尊厳ある生」に貢献できるか?(田中瑛)

◎読書案内コラム
10 中山研一『安楽死と尊厳死──その展開状況を追って』(松田純)
11 中島みち『「尊厳死」に尊厳はあるか──ある呼吸器外し事件から』(松田純)

第Ⅵ部 企業政策編
第1章 企業倫理学における尊厳(アルベルト・レール/勝西良典 訳)
第2章 企業の義務としてのもっとも貧しい人々の尊厳(ゲルト・ライナー・ヴァーグナー+リューディガー・ハーン/小林道太郎 訳)
第3章 なぜビジネスは倫理的であるべきなのか──日本的経営論からの倫理学(岩佐宣明)

◎読書案内コラム
12 ミヒャエル・クヴァンテ『人間の尊厳と人格の自律──生命科学と民主主義的価値』(吉田量彦)
13 金子晴勇『ヨーロッパの人間像──「神の像」と「人間の尊厳」の思想史的研究』(津田栞里)
14 加藤泰史編『尊厳概念のダイナミズム──哲学・応用倫理学論集』(齋藤元紀)

編者後書き 尊厳概念の構築と個の尊重(小島毅)

索引
執筆者・訳者紹介

・執筆者・訳者紹介

後藤玲子(ごとう・れいこ)
1958年生まれ。一橋大学経済研究所教授。『潜在能力アプローチ――倫理と経済』(岩波書店、2017年)、『福祉の経済哲学』(ミネルヴァ書房、2015年)、『正義の経済哲学――ロールズとセン』(東洋経済新報社、2002年)、ほか。

石居人也(いしい・ひとなり)
1973年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科教授。「「現場」から組みたてる歴史学」(歴史学研究会編『第4次 現代歴史学の成果と課題』第3巻、績文堂出版、2017年)、「生・病・死、生存の歴史学」(東京歴史科学研究会編『歴史を学ぶ人々のために』、岩波書店、2017年)、「ハンセン病表象としての映画「小島の春」」(黒川みどり編『近代日本の「他者」と向き合う』、部落解放・人権研究所、2010年)、ほか。

宮地尚子(みやじ・なおこ)
1961年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科地球社会研究専攻・教授。精神科医師。『環状島゠トラウマの地政学』(みすず書房、2007年)、『傷を愛せるか』(大月書店、2010年)、『トラウマ』(岩波書店、2013年)、ほか。

金井 聡(かない・さとし)
1977年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程在籍。社会福祉士、精神保健福祉士。

小倉紀蔵(おぐら・きぞう)
1959年生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科教授。『歴史認識を乗り越える』(講談社、2005年)、『創造する東アジア――文明・文化・ニヒリズム』(春秋社、2011年)、『朱子学化する日本近代』(藤原書店、2012年)、『朝鮮思想全史』(筑摩書房、2017)、ほか。

原 塑(はら・さく)
1968年生まれ。東北大学大学院文学研究科・文学部准教授。『脳神経倫理学の展望』(分担執筆、勁草書房、2008年)、『脳神経科学リテラシー』(分担執筆、勁草書房、2010年)、『批判的思考と市民リテラシー――教育、メディア、社会を変える21世紀型スキル』(分担執筆、誠信書房、2016年)、ほか。

西野基継(にしの・もとつぐ)
愛知大学法学部教授。Einige Reflexionen zu Menschenwürde und Menschenleben, in: ARSP 103 (2017); 『人間の尊厳と人間の生命』(成文堂、2016年)、Menschenwürde als Rechtsbegriff in Japan, in: ARSP Beiheft 101 (2004),ほか。

斎藤拓也(さいとう・たくや)
1980年生まれ。北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授。政治思想史。『カントにおける倫理と政治――思考様式・市民社会・共和制』(晃洋書房、2019年)、“Kant on patriotism: ‘civic dignity’ and ‘way of thinking’, ” in Kant’s Concept of Dignity, Berlin, Boston: De Gruyter, 2019(加藤泰史とGerhard Schönrichの共編著),ほか。

宇佐美公生(うさみ・こうせい)
1957年生まれ。岩手大学教育学部教授。『新・カント読本』(分担執筆、法政大学出版局、2018年)、『尊厳概念のダイナミズム』(分担執筆、法政大学出版局、2017年)、『倫理学の地図』(分担執筆、ナカニシヤ出版、2010年)、ほか。

中澤 武(なかざわ・たけし)
1963年生まれ。明海大学・東京薬科大学・長野大学等非常勤講師。翻訳家。Kants Begriff der Sinnlichkeit, Stuttgart: frommann-holzboog, 2009,『尊厳概念のダイナミズム』(分担執筆、法政大学出版局、2017年)、ディーター・ビルンバッハー『生命倫理学――自然と利害関心の間』(共監訳、法政大学出版局、2018年)、マンフレッド・キューン『カント伝』(共訳、春風社、2017年)、ほか。

ヘザー・キース(Heather Keith)
南イリノイ大学博士号取得。ラドフォード大学教授。Pragmatist and American Philosophical Perspectives on Resilience, Lexington, MA: Lexington Press, 2019(共編著);Intellectual Disability: Ethics, Dehumanization, and a New Moral Community, Oxford, UK: Wiley-Blackwell, 2013(Kenneth Keithとの共著)、ほか。

小林道太郎(こばやし・みちたろう)
1974年生まれ。大阪医科大学看護学部准教授。哲学、倫理学。「補い合うことと考えること――ある看護師へのインタビューの分析から」(『看護研究』49 (4)、2016年)、「ケア倫理は看護倫理にどう貢献しうるのか――ケアの諸局面の倫理的要素から」(『日本看護倫理学会誌』6 (1)、2014年)、「フッサール現象学は臨床のコミュニケーション研究とどう関わるのか――看護研究を中心に」(『Communication-Design』8、2013年)、ほか。

日笠晴香(ひかさ・はるか)
岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学研究科講師。「意思決定と感情の能力」(本村昌文他共編著『老い――人文学・ケアの現場・老年学』、ポラーノ出版、2019年)、『子宮内膜症で悩んでいるあなたへ――意思決定プロセスノート』(共著、医学と看護社、2018年)、「意思決定における自律尊重の考察――価値の一貫性と変化の観点から」(『生命倫理』通巻26号、2015年)、ほか。

浜渦辰二(はまうず・しんじ)
1952年生まれ。大阪大学大学院文学研究科名誉教授・招へい教授。『ケアの臨床哲学への道――生老病死とともに生きる』(晃洋書房、2019年)、『可能性としてのフッサール現象学――他者とともに生きるために』(晃洋書房、2018年)、『フッサール間主観性の現象学』(創文社、1995年)、ほか。

ドロテア・ムラデノーヴァ(Dorothea Mladenova)
ライプツィヒ大学東アジア研究所共同研究員。Optimiert ins Jenseits. Subjektivierung von Sterben und Tod im superalternden Japan, in: Saša Bosančić, Reiner Keller (Hg.), Diskursive Konstruktionen. Kritik, Materialität, Subjektivierung, Interdisziplinarität – Perspektiven Wissenssoziologischer Diskursforschung II, Wiesbaden: Springer VS, 2019; ‚Sushi global‘: Zwischen J-branding und kulinarischem Nationalismus, in: David Chiavacci, Iris Wieczorek (Hg.), Japan 2013. Politik, Wirtschaft und Gesellschaft, Berlin: Vereinigung für sozialwissenschaftliche Japan-Forschung e. V., 2013, ほか。

齋藤元紀(さいとう・もとき)
1968年生まれ。高千穂大学人間科学部教授。『存在の解釈学――ハイデガー『存在と時間』の構造・転回・反復』(法政大学出版局、2012年)、『21世紀の哲学をひらく』(共編著、ミネルヴァ書房、2016年)、『始まりのハイデガー』(共編著、晃洋書房、2015年)、ほか。

田中瑛(たなか・あきら)
1993年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程在籍、日本学術振興会特別研究員(DC1、社会学)。「公共放送における『声なき声』の包摂の葛藤――NHKの福祉番組『ハートネットTV』のソーシャルメディア活用を事例として」(『マス・コミュニケーション研究』95、2019年)、「日本の伝統的メディア――政治システムとの強いリンクがもたらした構造的『右傾化』」(林香里との共著、小熊英二・樋口直人編『日本は「右傾化」したのか』慶應義塾大学出版会、2020年近刊)、ほか。

松田純(まつだ・じゅん)
静岡大学大学院特任教授・名誉教授、放送大学客員教授。『安楽死と尊厳死の現在――最終段階の医療と自己決定』(中公新書、2018年)、『ケースで学ぶ 認知症ケアの倫理と法』(共編著、南山堂、2017年)、ほか。

アルベルト・レール(Albert Löhr)
1955年生まれ。ドレスデン工科大学教授。Unternehmensethik und Betriebswirtschaftslehre. Untersuchungen zur theoretischen Stützung der Unternehmenspraxis, Stuttgart: Schäffer-Poeschel, 1991; Resozialisierung der ökonomischen Rationalität (Jahrbuch Ökonomie und Gesellschaft, Bd. 26), Marburg: Metropolis, 2014 (共編著); Grundlagen der Unternehmensethik, Stuttgart: C.E.Poeschel, 1991; 2., überarb. und erw. Auflage, 1994 (共著)、ほか。

勝西良典(かつにし・よしのり)
1967年生まれ。藤女子大学文学部講師。哲学、倫理学。「カントとaffectio――キリスト教思想の伝統を補助線としたカントの受動性問題の解釈(1)」(『藤女子大学キリスト教文化研究所紀要』第18号、2019年)、『ビジネス倫理学読本』(分担執筆、晃洋書房、2012年)、『ビジネス倫理学』(分担執筆、晃洋書房、2007年)、ほか。

ゲルト・ライナー・ヴァーグナー(Gerd Rainer Wagner)
1947年生まれ。デュッセルドルフ大学名誉教授。Betriebswirtschaftliche Umweltökonomie, Stuttgart: Lucius & Lucius, 1997; Betriebswirtschaft und Umweltschutz, Stuttgart: Schäffer-Poeschel, 1993(編著);Ökonomische Risiken und Umweltschutz, München: Franz Vahlen, 1992(編著)、ほか。

リューディガー・ハーン(Rüdiger Hahn)
デュッセルドルフ大学教授。Multinationale Unternehmen und die „Base of the Pyramid“ – Neue Perspektiven von Corporate Citizenship und Nachhaltiger Entwicklung. Wiesbaden: Gabler, 2009; Die gesellschaftliche Verantwortung des Unternehmens: Hintergründe, Schwerpunkte und Zukunftsperspektiven. Stuttgart: Schäffer-Poeschel, 2012(共編著)、ほか。

岩佐宣明(いわさ・のぶあき)
1976年生まれ。愛知学院大学教養部准教授。哲学、倫理学。「デカルト認識論における自己認識の問題」(『理想』第699号、2017年)、「コギトの特権性」(『フランス哲学・思想研究』第12号、2007年)、「歪められたコギト」(『哲学』第56号、2005年)、ほか。

吉田量彦(よしだ・かずひこ)
1971年生まれ。東京国際大学商学部教授。Vernunft und Affektivität. Untersuchungen zu Spinozas Theorie der Politik, Würzburg: Königshausen & Neumann, 2004;『倫理学案内』(共著、慶應義塾大学出版会、2006年)、スピノザ『神学・政治論』全2巻(光文社古典新訳文庫、2014年)、ほか。

津田栞里(つだ・しおり)
1993年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程在籍、日本学術振興会特別研究員(DC1、人文学)。「バウムガルテンの実体論──『実体的なもの(substantiale)』をめぐる一考察」(『哲学の門──大学院生研究論集』1、日本哲学会、2019年、優秀論文賞)、ほか。

■お詫びと訂正──────────────────────────────────────────────

『尊厳と社会』(下)に、下記の誤りがございました。
読者の皆様ならびに執筆者、関係各位の皆様に謹んでお詫び申し上げ、ここに訂正いたします。

目次・読書案内コラム6の書名
(誤)
ホセ・ヨンパルト『人間の尊厳と国家の権力』
(正)
ホセ・ヨンパルト『人間の尊厳と国家の権力──その思想と現実、理論と歴史』

目次・第VI部・第1章の章題
(誤)
企業倫理学における尊厳説
(正)
企業倫理学における尊厳

目次・読書案内コラム14の書名
(誤)
加藤泰史編『尊厳のダイナミズム──哲学・応用倫理学論集』
(正)
加藤泰史編『尊厳概念のダイナミズム──哲学・応用倫理学論集』

122頁・読書案内コラム6の書名
(誤)
ホセ・ヨンパルト『人間の尊厳と国家権力──その思想と現実、理論と歴史』
(正)
ホセ・ヨンパルト『人間の尊厳と国家の権力──その思想と現実、理論と歴史』

2020年3月
法政大学出版局 編集部

書評掲載

「図書新聞」(2020年9月19日号/有馬斉氏・評)に紹介されました。