叢書・ウニベルシタス 1115
世界の他化
ラディカルな美学のために

四六判 / 316ページ / 上製 / 価格 4,070円 (消費税 370円) 
ISBN978-4-588-01115-3 C1310 [2020年10月 刊行]

内容紹介

「他化(altération)」とは、この語が通常ふくむ「悪化」や「変質」、形の破壊という否定的意味ではなく、異質で他なるもの(autre)への変化と運動を繰り返す、この世界の物質それ自体の力動的存在を肯定することである。感性的=美学的な領域でバタイユの思考が切り開いた変形主義的唯物論から、新しい存在論と倫理の可能性を開く試み。ブルガリア出身の注目の哲学者の主著、「日本語版への序文」付。

著訳者プロフィール

ボヤン・マンチェフ(マンチェフ ボヤン)

(Boyan Manchev)
1970年生まれ。新ブルガリア大学教授。ベルリン芸術大学、ホリンズ大学客員教授。世界的に活躍するブルガリア出身の哲学者。デリダ設立の国際哲学コレージュでプログラム・ディレクターを務めるなど現代フランス哲学界の重要な論客の一人。ブルガリアのアーティスト・コレクティヴ「メテオール」のドラマトゥルクでもある。博士論文ではドストエフスキーを論じ、アリストテレス、カント、バタイユ、ジャン=リュック・ナンシーらの哲学・思想を受け継ぎながら他化や変容をキーワードとする様態の存在論を展開している。著書は本書のほかにフランス語で書かれた『変容と瞬間──生の脱有機化』(La métamorphose et l'instant : Désorganisation de la vie, La Phocide, 2009)、ブルガリア語で刊行されたのち英語に翻訳された『雲──自由な身体の哲学』(Clouds. Philosophy of the Free Body, Metheor, 2019)など。

横田 祐美子(ヨコタ ユミコ)

1987年生まれ。立命館大学文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員DC、立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員を経て、現在は同研究機構助教。専門は現代フランス哲学、フェミニズム。著書に『脱ぎ去りの思考──バタイユにおける思考のエロティシズム』(人文書院、2020年)、論文に「黒衣の娼婦と脱ぎ去りの思考──『内的体験』の鍵としての『マダム・エドワルダ』」(『関西フランス語フランス文学』第24号)、共訳書にミカエル・フッセル『世界の終わりの後で────黙示録的理性批判』(法政大学出版局、2020年)など。

井岡 詩子(イオカ ウタコ)

1987年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業。京都大学大学院博士後期課程研究指導認定退学。京都大学博士(人間・環境学)。現在、京都芸術大学(旧称、京都造形芸術大学)、摂南大学非常勤講師、国際日本文化研究センター技術補佐員。専門は美学・芸術学、表象文化論。著書に『ジョルジュ・バタイユにおける芸術と「幼年期」』(月曜社、2020年)。

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次

日本語版への序文
世界の他化──力動的存在論のために
 世界の地平──変容
 変形主義的唯物論のために
 唯物論をめぐる戦いにおける同伴者としてのバタイユ
 世界の他化、世界の存続=固執性

序論 他化の政治
 いったいなぜバタイユなのか
 バタイユと哲学者たち
 方 法
 超批判
 例 証
 最後の哲学者と世界の変容

第一章 感覚の変質=他化──アイステーシス的公理
 プリミティヴ・アートと形象化された表象の起源
 ミメーシスの変質=他化
 複合イメージと個別の形態──類型と特異性
 模倣的還元
 怪 物
 絶え間ない変質、イメージ
 付記──アリストテレスのアロイオーシス
 感覚の変質=他化
 メタ‐アイステーシス──限界の感覚的経験
 批判的限界、触覚
 アイステーシス的他化と美的領野
 他化をもたらす身振り、変形された物
 偶然、可能態の現実性
 革命的唯物論

第二章 物のまなざし
 物の執拗さ──近代的表象の批判
 猥褻さ
 裸体──《オランピア》の現前
 魅 惑
 付記──〈もの〉
 不定形なもの
 足の親指
 視覚の触視性──ヴィジョンの超批判のほうへ

第三章 感性的経験の超批判──現象学と存在──感性学
 直接性、視覚、触覚──現象学的論争
 視覚の現象学と超批判
 触覚──可逆性と他化
 触覚の空虚な核
 盲点──触れる触れえないもの
 触覚の他化
 内在する隔たり──現前の審級(執拗さ)
 存在──感性学的地平
 世界の物質の強度──火
 付記──見ることの他化、身体の他化。プロメテウスとしてのファン・ゴッホ

第四章 裸の真理、イメージ
 視覚とまなざし
 倫理的直接性──顔、パロール
 他化された無媒介性
 足への盲目のまなざし。裸の真理
 顔の裸性と裸足
 ラディカルな美学と超倫理
 経験と他化
 現前のまなざし
 付記──死とイメージ
 おそらくは盲目であろう神
 世界の現前、イメージ
 現前の透明さ

訳者あとがき
索 引