叢書・ウニベルシタス 987
根源悪の系譜〈新装版〉
カントからアーレントまで

四六判 / 446ページ / 上製 / 価格 5,170円 (消費税 470円) 
ISBN978-4-588-14063-1 C1310 [2021年07月 刊行]

内容紹介

二十世紀の歴史に癒しえぬ傷を残した数々の大量虐殺のあとで、哲学は「悪」をどう語りうるのか。カントが創出した「根源悪」の概念を軸に、人間が罪悪を犯す生来の可能性や必然性を熟考した思想家の系譜──ヘーゲル、シェリング、ニーチェ、フロイト、レヴィナス、ヨーナス、アーレント──を鋭く一望する。弁神論による「悪」の正当化が困難な今日、倫理の根源を問い質す碩学の労作。

著訳者プロフィール

リチャード・J.バーンスタイン(バーンスタイン リチャード ジェイコブ)

(Richard J. Bernstein)
1932年生まれ。ペンシルヴァニア大学、マサチューセッツ工科大学などを経て現在はニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチに所属。主としてプラグマティズムを研究するが、ヨーロッパ大陸の哲学にも造詣が深い。今は亡きリチャード・ローティの思想的盟友としても知られる。単著に『ジョン・デューイ』、『実践と行為』、『科学・解釈学・実践』(邦訳、岩波書店)、『手すりなき思考』(邦訳、産業図書)、『ハーバーマスとモダニティ』、『ハンナ・アーレントとユダヤ人問題』、『フロイトとモーゼ神話』、『悪の濫用』および『プラグマティズム的転回』がある。

阿部 ふく子(アベ フクコ)

1981年生まれ。日本学術振興会特別研究員(新潟大学)。共著書に『ヘーゲル体系の見直し』(理想社)、論文に「哲学と人間形成──ニートハンマーとシェリングの教養形成論をめぐって」(『シェリング年報』第19号)ほか。

後藤 正英(ゴウトウ マサヒデ)

1974年生まれ。佐賀大学准教授。共著書に『ユダヤ人と国民国家──「政教分離」を再考する』(岩波書店)、『ドイツ観念論を学ぶ人のために』(世界思想社)、共訳書に『シェリング著作集 (1b) 自然哲学』(燈影舎)ほか。

齋藤 直樹(サイトウ ナオキ)

1970年生まれ。盛岡大学准教授。共著書に『21世紀の哲学史』(昭和堂)、共訳書にブプナー『美的経験』(法政大学出版局)、論文に「ツァラトゥストラの「言語」──情動的言語使用の音楽的基礎」『理想』(第684号)ほか。

菅原 潤(スガワラ ジュン)

1963年生まれ。長崎大学大学院教授。著書に『環境倫理学入門──風景論からのアプローチ』(昭和堂)、『「近代の超克」再考』(晃洋書房)、『昭和思想史とシェリング──哲学と文学の間』(萌書房)ほか。

田口 茂(タグチ シゲル)

1967年生まれ。北海道大学大学院准教授。著書に『フッサールにおける〈原自我〉の問題』(法政大学出版局)、論文に「「私」の定義としての「身代わり」──主体の唯一性と留保なき普遍性をめぐって」『現代思想 総特集・レヴィナス』(40巻3号)ほか。

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次


緒論

第一部 悪、意志、自由

 第一章 根源悪──自分自身と戦うカント
  悪しき格率
  根源悪
  悪魔的な悪
  無制約的な道徳的責任

 第二章 ヘーゲル──〈精神〉の治癒?
  有限者と無限者
  悪と有限性
  アダムの堕罪
  悪の必然性と正当化?
  ヘーゲル対ヘーゲル

 第三章 シェリング──悪の形而上学
  実在的な悪
  根拠と実存
  我意と闇の原理
  悪の道徳心理学

 間奏曲

第二部 悪の道徳心理学

 第四章 ニーチェ──善悪の彼岸
  「よいとわるい」対「善と悪」
  弁証法的アイロニスト
  悪とルサンチマン
  善悪の彼岸
  悪についてニーチェから学ぶもの

 第五章 フロイト──根絶不可能な悪と両価性
  一群の兄弟たちが経験する両価性
  欲動論
  ニーチェとフロイト
  悪に対する責任

第三部 アウシュヴィッツ以後
 プロローグ

 第六章 レヴィナス──悪と弁神論の誘惑
  弁神論の終焉
  悪の現象学
  無限の責任

 第七章 ヨーナス──新しい責任の倫理
  ニヒリズムに対する応答
  悪とわれわれの黙示録的状況
  ヨーナスの神話を「脱神話化する」
  ヨーナスとレヴィナス

 第八章 アーレント──根源悪と悪の陳腐さ
  余計さ、自発性、複数性
  悪の意図と動機?
  アイヒマン──人間的な、あまりに人間的な

結論

原注
訳者あとがき
文献一覧
人名索引

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