叢書・ウニベルシタス 1102
アメリカのニーチェ
ある偶像をめぐる物語

四六判 / 660ページ / 上製 / 価格 6,380円 (消費税 580円) 
ISBN978-4-588-01102-3 C1310 [2019年10月 刊行]

内容紹介

神の死を宣告し、超人の到来を説いて狂気に倒れたドイツの哲学者は、じつは最もアメリカ的な思想家エマソンの熱心な愛読者だった。ニーチェの反基礎づけ主義の哲学が、ナチズムへの影響という問題を超えて、20世紀米国の文化やキリスト教、リベラリズムやプラグマティズム哲学全般に及ぼした大きなインパクトを跡づけた労作。ニーチェ翻訳・受容の歴史から、アメリカという国の姿が見えてくる。

著訳者プロフィール

ジェニファー・ラトナー=ローゼンハーゲン(ラトナー ローゼンハーゲン ジェニファー)

(Jennifer Ratner-Rosenhagen)
ウィスコンシン大学マディソン校の歴史学教授。専門はアメリカ精神史。著書には他に『アメリカを形成した思想』(オクスフォード大学出版局)、共編著として『ページの上の異議申し立て』(ウィスコンシン大学出版局)、『アメリカ精神史の世界』(オクスフォード大学出版局)がある。本書『アメリカのニーチェ』は処女作でありながら注目され、各方面で話題を呼んでいる。

岸 正樹(キシ マサキ)

1955年生まれ。アテネフランセ、日仏学院にて学ぶ。英米仏の批評理論、翻訳理論を研究。現在、翻訳家、河合塾講師。訳書にA.ベルマン『翻訳の時代──ベンヤミン『翻訳者の使命』註解』、J.-J.ルセルクル『言葉の暴力──「よけいなもの」の言語学』(いずれも法政大学出版局)。

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次

プロローグ 大西洋の横断──自生の知性、海外へ



第一章 「アメリカのニーチェ」の形成
 ニーチェとアメリカ・コスモポリタニズムのヨーロッパ式枢軸
 ニーチェの流行
 ニーチェの人物像
 「ニーチェ的」と「ニーチェ主義」アメリカ英語に

第二章 近代における人間の魂
 ニーチェと近代思想の諸問題
 弁明しないカトリックの弁明
 「社会的福音」とキリスト教の実践可能性
 ニーチェのキリスト教への貢献
 ナザレのイエス、ナウムブルクのニーチェ

第三章 超人のアメリカ式馴化
 大衆の想像力の中の超人
 自己の超克と社会的向上
 近代の目まぐるしさとロマン主義的自己放棄
 超人とドイツ民族精神
 戦場の超人と「ドイツ製」世代
 おのおのにそれぞれの超人を

第四章 教育者としてのニーチェ
 知識人を経験する、言葉が世界を形成する
 ニーチェのまがいもの
 文化批評という「悦ばしき知識」
 近代の知識人と預言者の切望

幕間 ニーチェを奉る人々
 ニーチェに取りつかれる、ニーチェを所有する
 ニーチェを範とする
 ニーチェ巡礼
 民主主義文化に対する「距離のパトス」

第五章 ディオニュソス的啓蒙思想
 ウォルター・カウフマン、ドイツ人亡命者、ヒトラーに追放されたニーチェ
 厄介な思想家ニーチェ
 ニーチェとナチス
 ニーチェの実験主義とジェイムズのプラグマティズム
 ディオニュソス的啓蒙思想への対抗
 万人のためのそして何人のためのものでもないカウフマンのニーチェ

第六章 アメリカの土壌で生まれた反基礎づけ主義
 ハロルド・ブルーム──エマソンの先行性の探究
 リチャード・ローティ──ニーチェとプラグマティストの地平の融合
 スタンリー・カヴェル──ニーチェ、エマソン、そして故郷への道を見出すアメリカ哲学
 アメリカ的思考についての思考

エピローグ ニーチェとは我々のこと

謝 辞

訳者あとがき

書評掲載

「朝日新聞」(2019年11月2日付/石川健治氏・評)に紹介されました。

「日本経済新聞」(2019年11月23日付/森本あんり氏・評)に紹介されました。

関連書籍

『ニーチェ』
リュディガー・ザフランスキー:著
『自己を超えて』
ポール・スタンディッシュ:著