介護保険解体の危機
誰もが安心できる超高齢社会のために

A5判 / 238ページ / 並製 / 価格 2,530円 (消費税 230円) 
ISBN978-4-588-67524-9 C0036 [2019年08月 刊行]

内容紹介

介護の負担を家族に押しつけず、社会全体で支える制度として2000年に導入された介護保険。しかし社会保障財源不足を背景に、介護サービス利用が制限され、要介護度の低い高齢者が保険対象から外されるとともに、職員の離職も止まらず、制度は実質的に解体しつつある。危機はなぜ生じたのか? 超高齢社会にはどんな制度設計が必要なのか? 介護の実体験をふまえた、経済学者からの緊急の提言。

著訳者プロフィール

下野 恵子(シモノ ケイコ)

岐阜県に生まれる。名古屋大学経済学部卒業。経済学博士(神戸商科大学、現兵庫県立大学)。名古屋大学経済学部助手、新潟産業大学経済学部講師・助教授、東京経済大学経済学部助教授、名古屋市立大学大学院付属経済研究所教授・所長などを歴任。この間、オーストラリア国立大学、ニューサウスウェルズ大学、マッセイ大学(NZ)、オックスフォード大学などに、客員研究員・客員教授として研究滞在。
介護保険導入前より介護保険制度、介護職員の賃金・待遇、介護サービス産業に関する研究を開始する。主な研究分野は、マクロ経済学、労働経済学、財政学。現在、立命館大学BKC社系研究機構・客員研究員、専修大学経済学部非常勤講師。
著書:『資産格差の経済分析』(名古屋大学出版会、1991年)、『個人貯蓄とライフサイクル』(橘木俊詔氏との共著、日本経済新聞社、1994年。第37回日経・経済図書文化賞受賞)、『介護サービスの経済分析』(大日康史・大津廣子氏との共著、東洋経済新報社、2003年)、『看護師の熟練形成』(大津廣子氏との共著、名古屋大学出版会、2010年)、『「所得増税」の経済分析』(ミネルヴァ書房、2017年)。

※上記内容は本書刊行時のものです。

目次

はじめに

序 章 「家族介護」の呪縛、在宅介護を支える訪問介護サービス
1 母の介護で学んだ介護保険の重要性とホームヘルパー・介護職員の専門性
2 本書の目的と構成

第1部 介護保険の歴史──誕生から縮小を経て解体へ

第1章 介護保険導入の背景と公的介護サービスの必要性
1 はじめに
2 介護を必要とする高齢者の増加──平均寿命の延び
3 公的介護サービスを求める高齢者──高齢単身・夫婦世帯の増加と経済的自立
4 介護保険導入以前の高齢者介護──老人病院への「社会的入院」の急増
5 医療保険の膨張と介護保険の導入
6 医療保険の補完としての介護保険──「医療施設」が介護施設とみなされる不思議
7 まとめ

第2章 介護保険の誕生と生活援助サービスの縮小・利用制限の歴史
1 はじめに
2 介護保険の誕生──日本とドイツの介護保険の財源と介護認定の違い
3 日本における介護認定の方法とその問題点
4 介護専門職の導入──介護福祉士とホームヘルパー、そしてケアマネジャー
5 介護保険で提供されるサービスの種類と利用者数
6 要介護認定者の増加と「生活援助サービス」の縮小・利用制限の歴史
7 介護費用の増加と保険料の引き上げの歴史、そして介護保険収入増のための提案
8 まとめ

第3章 消費税率引き上げ延期で始まった「軽度者」の切り離しと介護保険解体
1 はじめに
2 野田民主党内閣の「税と社会保障の一体改革」と三党合意、そして合意の破棄
3 消費税率引き上げ延期──年5兆円の社会保障財源の消失と社会保障水準の低下
4 介護保険の解体 ① 要支援1・2の「介護保険からの切り離し」と「総合事業への移行」
5 介護保険の解体 ② 介護報酬の大幅な引き下げ(−2.27%)と介護事業所数の減少
6 介護保険の解体 ③ 特別養護老人ホームの利用制限 (要介護3以上)と「介護医療院」の導入
7 介護保険の解体 ④ 自己負担引き上げによる介護サービス利用の抑制
8 介護保険の解体 ⑤ 介護認定の厳格化による介護保険対象者数の抑制
9 まとめ

第2部 政府の介護職員不足対策──無資格の介護労働者の導入

第4章 2012年以降の介護職員不足の深刻化と政府の介護職員不足対策
1 はじめに
2 2012年以降のホームヘルパーの求職者の急減──2016年にはわずか1,700人
3 介護施設で働く介護職員不足の深刻化──2016年の有効求人倍率は4.8倍
4 訪問系介護職員数の低迷と入所系介護職員数の伸び──在宅介護中心から施設介護中心へ
5 介護職の不人気──介護福祉士養成校入学者が激減
6 人手不足でも介護職員の賃金が上がらない理由
7 政府の介護職員不足対策──無資格の雇用者、ボランティア、外国人労働者の活用
8 まとめ

第5章 在宅介護サービスへの無資格の雇用者・ボランティアの導入
1 はじめに
2 「介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)」と介護保険の違い
3 無資格の雇用者とボランティアの活用──総合事業の「訪問型サービス」と「通所型サービス」
4 総合事業の低報酬介護の課題──担い手不足と地方経済の衰退
5 低報酬介護の担い手を継続的に確保できるか?
6 「軽度者」の介護を考える──訪問介護サービス利用の国際比較
7 まとめ

第6章 介護施設の職員不足と外国人介護労働者・介護ロボット
1 はじめに
2 外国人介護労働者の受け入れ制度──必要とされる日本語のレベルと介護知識
3 EPAによる介護福祉士候補の受け入れの目的と実態
4 EPA介護福祉士の受け入れは合理的な政策か──プログラムの内容と税金投入
5 「特定技能1号」の介護分野による大量の外国人労働者受け入れ
6 大量の外国人介護労働者受け入れの介護施設への影響
7 介護ロボットの導入・IT化は介護職員不足対策になるか?
8 まとめ

第3部 3つの選択と介護保険の未来──あなたが必要とする介護サービスとは?

第7章 介護保険の未来を考えるヒント
1 はじめに
2 介護保険縮小・解体政策を考える──介護保険対象者が要介護3以上になる日
3 介護資格を考える──無資格の雇用者・外国人介護労働者導入の意味
4 ホームヘルプサービスの未来を考える──訪問介護サービス公営化の提案
5 新たな介護施設「介護医療院」を考える──医療系施設の増加と介護保険の医療化
6 介護サービス産業の未来を考える──10兆円産業と女性労働の未来はどうなる?
7 まとめ

第8章 3つの選択と2025年の介護保険・介護サービス供給体制
1 はじめに
2 《選択1》政府案──介護保険対象者は要介護3以上
3 《選択2》2018年の介護保険の維持──介護保険対象者は要介護1~5
4 《選択3》2000年の介護保険──介護保険対象者は要支援・要介護の全員
5 負担増は無理?──日本はOECD諸国で最低レベルの税・社会保障負担
6 国際比較からみえる日本人の負担増への拒否感と「家族介護」への期待
7 まとめ

おわりに
付録──幸せな老後生活を支える最低保障年金と公共住宅・公的介護施設
参考文献
索 引

書評掲載

「エコノミスト」(2019年9月24日号)に紹介されました。

「毎日新聞」(2019年10月27日付/藻谷浩介氏・評)に紹介されました。

「シルバー新報」(2019年9月26日付)に紹介されました。

「都市問題」(第111巻第04号、2020年04月号)に紹介されました。

「週刊社会保障」(2020.2.10 NO.3058、2020年2月10日発行)に紹介されました。